私は如何にして心配するのをやめて精神科に通院するようになったか


眠れなかったり心配だったりドキドキしたりムカムカしたり見えない電波を
傍受したりカミサマの声が聞こえて来たりして日々悩んでらっしゃる皆様,
あんじょうしてまっか.ということでいろいろあってもなかなか精神科には
行きづらくて…という声が多いのは事実.うーん,なぜなんでしょうかね.
皆様がおっことしているきっかけをぼくはたまたま拾った,というだけの
ことなんでしょうけどね.話はもう10年以上も昔に遡ってしまいますが….

馬鹿な中学生だったぼくは馬鹿な高校生になり,はじめての学生寮生活で
生活のリズムを整えられたらいいな,と思っていたわけです.中学の頃から
徹夜して本読んでラジヲ聞いて朝を迎えてそのまま学校行って眠たーい,
とかほざくガキだったわけですから,強制的にそのへんを矯正してくれる
学生寮と言うのはうってつけのとっておきだったわけですな.いずれにしろ
学校が遠かった事もあって,電車通学よりはギリギリまでダラダラできる
ほうがいいかな,とも考えたわけです.真面目に矯正する気があるんだか.

で,案の定矯正計画はうまくいかなくなりまして.逆に忙しい学生生活に
ついていけないだけになってしまいました.さあ,睡眠障害に付随する鬱の
はじまりでございます.睡眠障害自体はそもそも体質としてあったのかも
しれませんが,憂鬱感と言うのはあまり慣れていないわけで.で,学校の
カウンセリングルームへ週に一度通う事になったのであります.そこから
病院を紹介されて15歳から通院生活スタートなわけです.そりゃあ最初は
抵抗感は少しありました.でも興味もあったし,なによりも現状困り果てて
いるわけですから行かなくちゃいけないのは行かなくちゃいけないんです.

待合ロビー.長椅子で寝てる人,ずっと身体全体が揺れてる人,どう優しく
見積もっても挙動不審な人,煙草に火を付けて消し付けては消し続ける人,
中には普通のおっちゃんおばちゃんもいるわけですがどうも空気が澱んでて
なんだかなあという雰囲気.子どもはほとんどいないのになぜか積んである
幼児向け雑誌や絵本.それを食い入るように見つめるどう贔屓目に見ても
二十歳くらいのお兄さん.なんかすごいなんかすごいなんかすごい,などと
思って見てましたが,よく考えたらぼくもここに溶けこんでるんだろうな.
このあとすぐ学校なので学生服で病院.浮いてるんだか馴染んでるんだか.

で,薬をもらう生活が始まったわけですが….なんとこの病院,通ってた
高校の系列病院だったため学生証を提示すると診察料がタダ.これはよい.
世界で最もうまい酒はタダ酒だ,とギリシアの哲学者も言っております.
ディオゲネスの教えに従いタダ薬をもらいに通院する高校一年生でした….

今にして思えば,ちょっと大人ぶりたくて夜の街に繰り出す学生とおんなじ
思考過程だったんでしょうか.ちょっと不思議な空間に身を置くのは楽しく
病気と戦いながらも悲壮感はあまりありませんでした.や,そりゃーまあ
時にはつらくなって首吊ったりもしましたけれども.病院へ行く事自体に
嫌悪感はすっかり消えてましたね.恐いとこじゃないってわかってたから.
そう,ちっとも恐いとこじゃないんです.普通に風邪引いたら病院に行く,
これと同じ感覚で通える場所なんだとよくわかりましたので.でもまあ実は
よくできていて,精神科通院の患者さんだとは悟らせないよう病院側からの
工夫がいろいろありました.たとえば受付で提出するカードを入れる袋には
何科へ行くのか書かれているんですが,精神科だけは何も書かれていない
袋が併用して使えるようになっていたり.薬をもらう時にも袋には精神科の
文字はひとつもなし.でも逆にそういう工夫がかえって疎外感を増すのでは
ないかな,と薬でボケた頭のすみっこの方でぼんやり考えていた次第です.

恐いとこじゃないから.心あたりのあるかたは素直に行ってみるも吉かと.


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