芋の煮えたも御存知ない


寒い季節は大鍋で大量に料理を作るに限る.ということでカレーだったり
シチューだったりするんですが,こないだひどい目に遭ってしまいました.

その日の食材.とりあえず大根は一本まるまるいちょうに刻み,にんじんは
短冊に.豚ばらを適当な大きさにぶつぶつ切って底面積が扇風機くらいの
大きさの鍋に放りこむ.ひたひたに水を張ってぼわっと火を着け,それから
冷凍の(ここらあたり手抜きだ)さといもをだぶだぶと入れる.火が通ったら
味噌を溶かし入れて豚汁のできあがり.ぐらぐらのあつあつをいただく.

テレビを見ながらのほほんと食っていたんですが,おわらいの番組に思わず
笑ってしまって,のどにつっかえてしまったのですよ.よりにもよって,
ねっとりと煮えた熱々のさといもが.咽頭や軟口蓋にぬずっと張りついて
しかもそれはあつあつなのです.いいですか,さっきまで煮えてたんです.

それは飲み下す事も口に戻す事もままならなく.こっくりねっとりと煮えた
芋の粘着力は素晴らしくすさまじく.喋れないし息ができない.それはもう
目を白黒させて何かを探し求めましたよ.とりあえず水か何か.そうやって
いる間にも煮えたてのブツはもっさりと喉を焼いていくのです.助けて.

ようやく咀嚼嚥下した後,喉がものちゅごく痛んでるのに気づく.声がまず
出せない.声を出すのに一番必要な声帯までもやらかしちゃったんじゃあ,
とか思うくらいに痛かった.熱くて痛くてひりひりして,やるかたなし.

ひーこらぜーはー言いながらそういえばかるたであったよなあ,「ゐもの
にえたもごぞんじない」という札が.ちょっと調べてみたら江戸かるたの
一枚で,その諺の意味は「暮らしのよい人間は世の中の事に疎い」だとか
書いてありました.決してよい暮らしをしているとは思えないんですが,
世間知らずであることには間違いなさそうなので合ってるということにでも
しておいてやるか.今日はこのへんで勘弁してやる覚えてろ.なにをだ.

せめて京かるたの「ゐわしの頭も信心から」とかだったら被害は少なくて
済んだかも知れませんね,鰯は頭から骨ごとかぶりついても小骨を気にせず
平らげる人間ですから.しかしねえ,芋にはねえ,いや参りましたです.

そして「羹に懲りて膾を吹く」とかになりかねないのですな.アホやから.


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