散文「『彼女』のための究明」


『彼女』は悩んでいる.
さまざまな伝説の解釈などはかなり飽きてしまった.
下等な文章はこの頃の実情を無視してスパイスの香りを漂わせ,
伸びに伸びた蔓草はもともとの色を失って首を垂れる.
腕も垂れる.
顔もまた垂れる.
目尻も膝も垂れている.
ピンと張っているのは爪先くらいのものだ.
『彼女』が大事にしている卵のひびは今日も少しずつ大きくなり,
中の膜のさらに向こうから誰かが覗いている.
一言多い性格なもので,
たまには酸いも甘いも噛み分けた発言をして山椒のような万歳をしたいものだが,
その実こだわりはなくならない.
つくづくと.
否応なしに視野に入る小さくてまあるいサクランボの模様は小さな箱に描かれ,
言葉はその中に閉じ込められてもがいている.
誰も助けてあげない.
そして小声でうるさい俯いた時計が沈痛な面持ちで労働基準法を暗唱している.
とりあえず餌をあげなければ,
黙ってそのうちやる気を無くすだろう.
惜しいことかもしれない.
だが埃には時々大きな宝物が含まれていて,
それを探すのにはこの部屋を躍起になって掃除するしかない.
あれこれ見つかった中でもわたゴミにミントを混ぜてテグス糸でくくったやつはなかなかの逸材だった.
ため息はさまざまな理由からその存在を表わし,
ラジオは今日も異国の言葉を流している.
『彼女』には何も判別できない.
おいしい機械を発明してみるときには,
行き当たりばったりの実験を繰り返さねばならないのだが,
それすらも叶わないときがままある.
羽根を休めたりはばたかせたりするのはまどろみの特権であるが,
『彼女』にはそれを知る勇気がない.
昼寝をすれば解決案を思いつくかもしれない.
青白い薬はそれを手伝ってくれることだろう.
たまには真面目にギターを弾いて見るとか,
ふざけた楽譜を眺めてみるとか.
と金がもう一度裏返れば,
もうこれ以上何も言うことはない.
世界はでんぐり返ってゆらゆらぐるぐるしており,
悩むことはないのである.
そしてやがて世界は笑いだす.
しずくが垂れてマッチを濡らせば,
きっと誰も気づくところとなることだろう.
ちなみにパズルはいつも混乱を目的または前提としている.
いや,
これは特筆すべきことではなかった.
雪の球を投げつけるためのくだらないエネルギーはデータリサーチの時点で懐疑的だからだ.
何も言うことはない.
それよりも,
安住の地を求めてもう少し地図を描くべきなのだ.
そうすればそれ以上時計は安易な言葉を吐かない.
さらにキャンディの空箱にピンを差し込み,
その穴から漏れ出す甘い香りを吸い込むだけでうす汚れた窓を覗き見ることができる.
引っ掻いたようなグレーの配色はアンテナのものだろうか,
凛とした雰囲気でひずんだ精神を着いてくる.
今こそカーテンを閉じるべきだ.
月が睨んでたり太陽が幅をきかしてたり,
肩をそびえさせて競合している星どもに用はない.
だらりとぶら下がったリボンと,
開けっ放しのドアはそのことをよくわかってくれているのだろう,
いきいきと強欲の源に向かってくれている.
正直なのはとても喜ばしい傾向だし,
だからこそフィルムには誰も写りはしないのだ.
カドミウムの色を残してテープが輝く.
あとにはアルカリ性の枕と可燃性の現地生産印刷物が手元に残った.
楽しいよね.
そろそろ肩が凝り始めただろう.
そういう時代なのだ.
ブックエンドをひっくり返すと良い.
2日以内に何かすばらしいことが起きるかもしれない.
そんなカタログを引っ張り出してみると,
付属の封筒にはすべて「秘密」と書いてあった.
「秘密」は「秘密」だから「秘密」なのであって,
誰にも理解出来ない形態でそこに存在しており,
またそのように出来ているのだ.
よぉでけた話やなぁ.
その「秘密」の「秘密」を知りたくないこともないが,
誰が走ろうと鏡に向かって慈母の微笑みを投げかけようと,
『彼女』にはどうでも良いことである.
今となっては.
どろっとした脳髄の残骸は王様にも女王様にも王子様にも戻せないのだから.
どうせみんなピーマンを食べながら言うのだ,
「君の言いたいことは大体わかったが,
結局君は何が言いたいのかね?」 牛のように失望して,
『彼女』はみだりに目を開けたり閉めたりする.
退屈しのぎに理由がいるだろうか? とげとげでいばりんぼの星を摘み取って篭の中に詰め込み,
竿に引っかけて売りに歩くのもそのひとつだ.
別に儲けが出なくてもいい,
不幸でなければ.
小さなじゅうたんと不遜な態度と,
古くてもとりあえず役に立ちそうな毛布とを求める行為は罪にはなるまい.
それは銀行に金を預けるようなものだ.
すぐ潰れる.
便利なようでもあり,
そうでもなかったりする.
だけどすぐ潰れる.
暖かいふりをしてくれる.
そしてすぐ潰れる.
ミクロンの単位までぐじぐじと潰していけば,
砂時計くらいにはなるだろう.
骨を焼いた後の利用法と同じくらいの価値はある.
あとは公平な審査にかかっている.
もうそれ以上口出ししないから.
期待するときと期待しないときの心の読み替え方は例のディスクに記録されているので,
その辺はそちらを参照されたし.
読み続けることで何かが理解出来ると言うものだ.
聖書のような理路整然とした論文と,
国語辞典のような無茶苦茶で盲滅法な話の羅列と,
どちらが理解しやすいかを考えれば答えは明瞭だ.
だから自分で考えなさい.
プラスティックの黄緑色のように猥雑ながらもわかりやすい.
それもあまり労を伴わない.
人間がカードを切るのにもいろいろな理由があるが,
現代社会においてはブロックが切れないのと扇風機が黙して何を考えているのかがいまいちわからないため,
こうした悲劇が起こりやすくなっている.
すなわち金の輝きをホーロー引きにすることで,
強酸性核廃棄物を黄緑色に染めるのだ.
しかも,
あたかもプラスティックらしく.
なじんだところで牛乳を加え,
弱火でことこと煮込めばクズどもは全滅する.
彼らは「今に見ていろ」が口癖だったが,
蛇の頭を砕いたために神がかりになり始めたのだった.
これもまたパスティーシュの弊害と言えよう.
ただ祈るべき銅貨については,
会議はまだ踊っている.
結論は3年前に遡らねばならない.
たらい回しにされながらもそのへんは我慢するとして,
「黒猫の跡をつけるマーカーを開発するための資金を捻出しなくてはいけない」と『彼女』が言っていたのを思い出してほしい.
トリックを見抜こうとして間抜けな電話をかけたばかりに,
軽犯罪法に触れかかった哀れな猫の事務員は泣き出してしまった.
かまどの中をのぞき込むことを許可してほしいと頼んだ歯科医師助手は今頃後悔していることだろう,
彼の黒猫はもうこの世界に戻ってこれない.
「さようなら」.
吃りながらの挨拶は情感がこもりすぎて疲れるが,
今回のはあまりにもちょうどよい具合だったので,
犬とねずみにもおすそ分けをしてみた.
ディスプレイには蜂蜜が垂れているのだが,
犬はきっと舐めて綺麗にしてくれる.
犬のよだれは科学者を喜ばせる.
まさに垂涎の思いだ.
たぶんまだ解明されていないけれどももう少しでなんなのかがわかりそうな具合のよい物質がそこに配合されているのだ.
名を上げることで溢れた心は蜂蜜を必要としない.
ねずみは怪我をしているのだが,
あのあまりにもちょうど良い挨拶のために笑顔を振りまいてくれる.
きっと,
きっとね.
どこでもそれがルールと言うことは誰もが知っていることだ.
とにかくここがパラダイス,
と言うことで意見は満場一致する.
だから小学校の教科書の
「ハナ,
ハト,
マメ,
マス」
の前にはそう記されていたわけだ.
知らなかったんですか,
百年前からそうなんですよ.
脆弱な子どもたちもたぶん子守歌として
「トニカクココガパラダイス,
ハナ,
ハト,
マメ,
マス,
ワライダス」
という懐かしい旋律を思い出すことだろう.
いつかクジラの舞踏会に誘われたときに聴いたあの歌を.
今は精一杯懐古趣味に走るがいい.
付け合わせにフレンチフライも忘れてはならない.
それこそが男の心意気と言うものだ.
それでもまだ『彼女』は悩んでいる.
ねずみの笑顔が理解できていないようだ.
教えてあげない.
フルートを前に腕組みして唸っているようではまだまだ修業が足りない.
とりあえず手に持って習うより慣れるべきだ.
行動力に欠ける人間はカドミウムイエローの絵の具も,
コバルトブルーの絵の具も食べることを許されない.
にゅるにゅりゅっ,
と搾り出して舌の上でゆっくりと解け合わせる快楽を知ることは,
行動力に溢れる人にのみ許される行為だと信じて疑わない.
またよくある誤解として,
チョコレートブラウンの絵の具がチョコレートの味だと言うのは嘘だ.
あれには蜘蛛が混じっている.
似たような理由でパールオレンジは大理石に似た味である.
少し古くて固くなった絵の具を唾液とともに歯にからめる時のあの舌触りは,
何物にも代えがたい.
そして氷イチゴを食べたときのようににっこり笑って舌を突き出し,
それが乾かぬうちに次の行動を起こす.
これこそ素早い行動力と言うものだ.
それだけの力を持つ人には,
ストレスも,
つい叫んでしまわなくてはならないような軋轢もない,
なあんにもない.
ない言うたらないんじゃ.
なんとうらやましい話であろうか.
『彼女』がもう少し賢かったなら.
私はただそれだけが気がかりなのである.


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