おばあちゃんの黒い知恵袋


うちの祖母のひととぼくとの共通点として,「耳が遠い」という点がなぜか
挙げられます.んで,ぼくの場合は何度も何度も聞き返してしまい,結局は
相手を不快にさせてしまったりすることってよくあります.聞き返してる
箇所がたまたまどーしよーもなくつまんないギャグだったりした日には
もう批難轟々でございますよ.「それ,わざと? 」って言われたことだって
なくはないんですから.で,そんな耳の遠い孫と耳の遠い祖母のひととが
会話をするとおかしなことになっていくわけですね.お互い聞こえないし.

すると祖母のひとは言いました.「聞こえんときにはな,聞こえたフリだけ
しとったらえーねん」.え,でもそれで会話なんて成り立つんでしょうか.
「あとはうん,うんって言うとったらなんとかなる」はあ,そんなもんか.
確かにある程度以上聞き返すのは失礼にあたるし,話の内容がシリアスな
ものでなければまあいいやと思ってちょっとだけ実験してみたことが.

祖母の人に話しかける.普通の声の大きさで.祖母の人は最初はなにかと
注意して聞いているようだが,そのうち諦めたようにうんうん頷いていく.
結局会話は成立していないので最後に祖母の人は「いっこも聞こえへん」と
それがどうした的強さでにっこり笑う.ここにまるでコミュニケーションが
成り立っていない事に感動すら覚えましたよ本当に.さすがにここまでは
マネできないので,「どうしても聞こえないときには」「内容がそんなに
重要ではないと判断した時」に限って聞こえた振りをしていたりします.
該当者すべての皆様ごめんなさい実は話をあんまり聞いてないほうです.

なお,耳が遠いとボケやすいというのは本当のようです.うちの祖母の人は
その後脳出血を起こして年齢に似合わぬ大手術をし,現在はほとんど動物の
ような生活になっています.リハビリセンターに出向いて声をかける時も,
「実は面倒臭がって聞いてないんじゃないかなー」などという思いがよぎる
事がばんばんありますが,そこはそれつんつん重箱のスミを追求したって
始まらないので,周囲のみんなも聞こえてるということにしてありますが
ちょっと心の中におばあちゃんの黒い知恵袋がちらつくのでありました.


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