自転車に乗って,


あー忙しかった.何がかと問われれば答えるもやぶさかではありませんが,
要するに住処を間借りさせていただいてる家主さんがブッ倒れてしまい,
急遽入院することになってしまったのですね.その顛末をごらんください.

一週間前.家主さん体調悪し.体温計が叩き出した温度は38度ちょい上.
かなりの熱である.これは少し喉をやられたかな? ということでマスクを
標準装備.身体を温めて寝るためにふとんをもう一枚出すことになった.

六日前.ぼくが寝ている間に「病院行ってくる〜」と出てゆく家主のひと.
というか仕事にも行かずどろどろ寝てました.もう昼だから起きなくちゃ.
すると電話が鳴る.「今病院.入院することになった」との話.うわあ.
しばらくして再度電話,「下着とかタオルとか病院まで持ってきて〜」と
いうわけで,仕事に行くのも忘れてあわててデカめの鞄に一式詰め込んで
自転車でわっせいわっせいと山を越えて病院へ向かう.なんとか自転車で
届く距離でよかった.ベッドに横たわる家主のひとは声をあげるのさえも
つらそうだった.喉だけではなく首筋のリンパ全体が腫れているだとかで,
事態は思った以上に深刻だったらしい.ただの風邪ではなかったのですね.
必要な荷物を全部そこに預けて,しゃこしゃこ自転車漕いで仕事へ向かう.
もう昼過ぎてるよ.だけど仕事は待っててくれないのでひそひそと残業.

五日前.さて困った,連休を利用して友人が遠路はるばる訪ねて来る予定.
家主さんとこに泊めさせてもらう予定だったのだが,家主さんが今いない.
ともあれ了解は取り付けてあるので泊まるのは構わないのだけれど,すごく
忙しいスケジュールをこなすはめになってしまう.まず朝起きる.ごめん,
朝じゃなかった.もう10時半過ぎてるし.11時半から病院の予約が入って
いるというのに,なにをやってるんですかわたくし.最寄駅まで自転車で
猛ダッシュ.電車はダイヤ通りにしか動かないので電車の中ではのんびり.
急ぐときほどゆっくり歩く,これがぼくの座右の銘ですから.乗り継ぎや
乗り換え部分ではできるだけ急ぐ.いつもなら乗り換えやすい駅まで少し
延長して乗るのだけれど,今日はそんな余裕ナシ.乗り換えるのにかなり
歩かされる不便な駅をだふだふと闊歩し,そして病院にたどり着いたのは
正午をちょうど過ぎたあたり.予約の遅刻者は待たされるものです.結局
土曜日最後の外来患者となりました.カウンセリング内容は,まあ今のとこ
そんなにひどくないので現状の薬を続けていきましょうとのこと.うん,
ぼくもそう思う.このところ激しい鬱症状には見舞われていないし,前は
昼下がりまで寝過ごしたらもう萎縮してしまって会社にもお休みの連絡を
いれていたところが,最近はそれでも会社にだけは行こう,遅刻したことで
それだけの理由で休むのはやめよう,とダメなりにも頑張っているので,
きっとそれなりにクスリは効いているのであろう.薬局で薬もらって帰還.

とって返してターミナル駅で乗り換えのついでに散髪.もう頬のあたりの
髪の毛がフサフサうっとうしくてたまらなかったので.でもヘアサロンには
予約いれてないしな,いいやひとまず直接出向いて予約だけしておこう,
ということで行ってみた.そしたら「今から30分なら時間空いてますから
それでよければ切りますが」とのこと.ほんなら切ってもらおうやんけ.
うなじにある脱毛箇所はまだ治らない….これが治ればもっと短くスッキリ
切ることができるのに.散髪終了後いくつか買いものをして空港へ向かう.

空港の近くの駅で待ち合わせ.つまり今住んでるところの最寄駅なのだが.
ひさびさに逢った友人は,まーよぉ肥えてはりますなぁ….自分のことを
棚にあげて他者の外面的特徴をあげつらうなんて最低ですか最低ですね.
冗談はともあれ一緒に歩いて駅から家へと向かう.家主のひとが入院して
いることは既に伝えてあるのだが,やっぱり心配していた模様.ひとまず
友人を家にご招待.自分の家ではないのに人を迎えるのってなんだか変.
返す刀で必要なものを袋に詰め込み,友人に留守を頼んで病院へ向かう.
坂道がきびしく感じるのは昔ほど体力がなくなったせいか,それとも単に
体重が+15kgくらいになったからなのか.家主のひとはひとまず落ち着いて
いたのだけれど,やっぱり顔色悪いしベッドから上がるのもつらそうだ.
連休中なので担当医が回診に来ることはないらしい.せめてヒマを潰して
もらおうと,いくつか本を持ってきたのでそれを預けてまた家へと戻る.

ここから宴会開始.友人には駅までのわかりやすい道筋を案内し,駅まで
見送ってから呼ばれていた宴会に突入する.しかもダブルヘッダーだぉ.
完全に遅刻なので股の筋肉に魂込めて自転車がしゅがしゅ漕いで向かう.
最初はサークルのOB/OG会.通称老人会らしい.むぎゅう.料理はおいしく
いただいたし,原稿の〆切もいただいたし,まあよきかなよきかな.途中で
後輩からの重いメッセージが公開されたけれども,人生浮かれてばかりで
過ごせはしないのだから,きっちりとみんなで受け止めることが必要かも.
よいのですよいのです,軽いものも重いものも全部,ことばにして話すと
少し冷静になれるからね.というわけでその場はその時だけ厳粛になるも
ちゃんと普通のどんちゃん宴会に戻りました.それがみんなの思いやり.

さて,こちらの二次会をパスして別の宴会へと向かう.すでに鍋は終わって
いたものの,ゲームをやっているところだったので参加.うひひ,これは
著しく楽しいですな.ことばに関するゲームなので,その場でただ一人の
文系としては負けてはいられません.しりとりしりとりしりとりしりとり,
カードはどんどんバスケットに投げ込まれていくので,焦らずに慌てずに
自分のカードを減らしていかなくては.しかし場札に「と」が出て自分の
手札に「ゆ」があった場合,「特選丸大豆生醤油」とか言ってしまうのは
自分でもよくわかりません.別にもっと他の単語があるはずなのにねえ.
ほかにもいろんな人と話すことができて楽しうございました,ふみふみ.

家に戻ると….部屋は片付けられていた….普段は掃除しないことについて
ひとかけらも良心の呵責を感じなかったのだけれど,他人に片付けてもらう
恥ずかしさについて学習したのでこれからは少しは片付ける.片付けるかも
しれない.片付けるんじゃないかな.まあちょっと覚悟はしておくように.
友人は近所のスーパーであれこれ買って食っていたらしく,本当にちゃんと
もてなせるのか自信がなくなってくる.いきなりスーパーのお惣菜売り場で
全部まかなうおもてなしってどうよ.でももう疲れたのでそのまま寝るー.

四日前.どっさり眠りこんで,気がつくと友人に起こしてもらっていた.
だからもてなしかたのベクトルが逆だ.服を着替えて一緒にお見舞いに.
家主のひとはだいぶ良くなってきているが,毎度の点滴のせいで腕が少し
痺れているとのこと.経過は良好らしいので,あとは抗生物質でなんとか
病気を抑え付け,リンパの腫れを一ヶ月かけて治めていくということで.
退院はあと数日後とのことで,胸を撫で下ろす.それではまた来るからと
友人と一緒に退出.その後中華街でお食事.恰幅の良い二人がのそのそと
バイキング料理を嬉しそうに取り分ける様はそれはそれはな状態だったに
違いあるまい.とにかくたくさん食っておいしかったので満足まんぞく.
その後ちゃらちゃら夜遊びなどに繰り出す.感じ悪い店もあればそれなりに
楽しいところもあり,久々に見掛ける顔などもあり,まあ人生いろいろ.
あんまり遅くなり過ぎて終電がなくなったのでタクシー使って帰りました.

三日前.夕方起床.ダメぢゃん.友人の飛行機の時間に間に合うかどうか,
結構微妙な線だったがなんとかチェックインには間に合った.金属探知機を
くぐり抜けるまでお見送り.結局なにをもてなしたのかよくわからないが
まあ喜んでくれたようなのでよしとしよう.そのまま自転車を駅に置いて
モノレールで病院へ.家主の人はもうかなりよくなっていて安心である.
でもまだ抗生物質で抑え込んでいるだけなので,免疫力が下がっているため
退院にはきちんと体力を復活させてからでないとね,ということらしい.
まあなにはともあれ元気になりつつあってよかったよかった.少し院内を
歩いて,ロビーでお茶を飲みながら歓談.この調子ならもう大丈夫だねえ.

二日前.連休終了.なので仕事にゆかねば.…なぜぼくはこんなところに?
気がつくとトイレの中.しかもシャツ一枚着ただけ.パンツなし.まるで
蜂蜜好きの黄色い熊のようである.そんなにいいもんじゃないですが.で,
察するところ薬を服んで,風呂に入ろうとしたところ,服を脱いでるうちに
途中でトイレに行きたくなって,洋式トイレに腰かけたままうっかり一晩を
過ごしてしまったらしい.…ま,誰もいないし,気がつく人もいなかったら
しょうがないやね.眠る前の奇行は今に始まったことじゃないし.これが
もし風呂だったら溺死してますが,まあちょっと自分の中で恥ずかしかった
だけなのでよしとしましょう.出勤は昼を過ぎてました….連休中に届いた
サポートの質問メールがたんまり.ぅゎーと思いつつもかりかり回答作り.
まだ一介のアルバイトなので,回答を作ったら ML に投げて,本社のかたに
チェックをいれていただくことになっているのだが,担当者が忙しそう.
「確認お願いします」と ICQ で呼びかけたものの,「はい」という返事を
残したまま帰ってしまわれた….連休はさんだあとの質問メールなので,
可及的速やかにサポート対応メールを投げたいところ.でもそれができずに
心の中をもにょもにょさせたまま会社を出る.また自転車でバンバン坂を
登って行き,今日もお見舞い.もう普通にごろんとベッドで横になっており
のんびり本を読んでいた.ロビーへ向かい一緒にお茶を飲む.実は仕事の
後なので面会時間ギリギリなのである.ゆっくり話すヒマもなく,正門を
閉めるお知らせのチャイムが鳴り響く.それじゃまた明日,ということで
さくっと帰宅.パンを焼いてサラダを作って.ひとりだと食事のしたくが
簡単でよいですのう.でもレタスに虫がついててかなりげんなり.丸ごと
ゴミ箱にブッ込む.他の野菜でありあわせて半熟卵のソースでもさもさ.

一日前.先日のサポートチェックをお願いしますよ〜と伝えたら,じゃあ
そろそろ回答の質もこなれてきたことだし,本社からのチェックなしで,
ひとりでやって構わないですよとのこと.なんだかどこかでレベルの上がる
音が聞こえた.責任は増えるけどサポートが自己判断で素早く対応できて
うれしいうれしい.やっぱり客を待たせちゃいけないよ.向こう様はもう
何がなんだかわからない状態で救いの手を求めてるんだし.ということで
一分一秒でも早く対応することに情熱を燃やすことに.今はこんなことしか
できないけれど,やっぱりサポートは「教えてくれてありがとう」という
メールがたまに返って来るのでうれしい.役に立てる実感があるからねえ.
会社がひけたら今日もお見舞い.自転車フル稼働.やっぱり坂道の途中で
息が切れてしまうけれど,それなら素直にその時に降りて歩けばいいさ.
病院に着くと,もう明日にも退院との話.荷物を減らしたいので,いろいろ
不要なものを持って帰ってくれとのことで,荷物を持てるだけ詰めこむ.
お見舞いに来てくれたひとたちがやたらとティッシュを持ってきたらしく
かさばることこの上なし.そういえば最初か二日目かくらいに,家主さんは
「コップと財布とティッシュ持ってきて〜」と言っていた.必需品なのか.
あんまり身近な人が入院したことがなくて,そういうの気が利かなくって.
結局ぼくは本ばかり持っていったなあ.病院に図書館があるというのに.
というわけで門が閉まるころに退出.雨に降られてしまったので少しだけ
本屋で雨宿り.…やみそうもない本降りになってしまったので泣きながら
自転車をわしゃわしゃ漕ぐ.おうちについてパン焼いてサラダ作って.結局
ひとりだとバリエーションについて考えなくていいから楽は楽なのである.
好きなものなら,同じものが何日続いても問題ないと考えるタイプなので.

そして今日.無事に退院したよ,とのメールが届く.よかったよかった.


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