誰か,ロマンチック止めて.
お仕事の合間にちょっと外に出かけることがあります.銀行に行ったり
お昼ごはんを調達しに行ったり.で,ちょっと探している本があったので
ふらっと本屋に寄ったわけです.店員に聞けばすぐわかるものを,他にも
いくつかの雑誌をチェックして.そしてある一冊の本を取ろうとした時が
ぼくらのはじまりだったのです.同じ本を取ろうとした娘さんが,「あっ,
すみません」と謝罪するとこちらも「いえいえ,お先にどうぞ」と薦める.
まるで大正浪漫のようではありませんか.絶対あーいうのは創作だと思って
いたのですが,実際そういう事態に自分が出くわすとは思いませんでした.
娘さんはぼくのことを年若いものだと思い込んだようで,「勉強するって
難しいですよね」と英会話の本など抱えておりました.…そろそろ29になる
髭ぼさのおっさん捕まえて「高校生でいらっしゃいますか?」と問われる.
そう,惜しむらくは声をかけて来た娘さん,歳は70を越えているというのが
いまいち気がのらない理由であります.てゆーかぼくが高校生に見えるのは
ひとまず目の病院にいった方がよろしいかと思われます.でもその奥さまは
本屋の中でしゃべるしゃべるしゃべる.あからさまに店に迷惑.そしてまた
それにつきあっているぼくも同罪扱いらしく,店長と思しきひとがやたらと
本の入れ換えや棚の位置決定などを行い,「早よどっか行けや」オーラが
ぎゅんぎゅん伝わって来る.で,ぼくはこういう場合話をつい聞いてしまう
性質なので,終わらない無間地獄.会社に戻らないといけないのにそれすら
ままならず,一冊の本にまつわる話と自分の受けて来た教育,そしてそれが
もうこんな歳を取ってしまったらダメね….コンピュータとかにも興味が
あるんですが,あなたコンピュータおできになるの? でもただ単にネットで
通信販売とかぽちぽちやるだけじゃ駄目なのよ,プログラム? とかを覚えて
ちゃんとつかいこなさないといけないの.…なんか本当にどうしようかと.
だから私は今からコンピュータの雑誌コーナーを見に行くのだけれど,
一緒に来てくださいませんか? という言外の意味を無視させていただき
すみません,もう少し文芸書と英会話の本などを探したいので…とひとまず
離れることに成功.もうじっとする暇もなく先ほど本を片付けていた人に
「すいません,○○社の○○○○○って取り扱ってますか? 」と訊くと
「ないね」とのつれない返事.かなり印象悪くしたのかな.機械雑誌の
コーナーをさりげなくスルーして,なんとか逆ナンパから逃れること成功.
あのままだったら「どこかでお茶でもしましょうか」とか言うてたし,
そこまで行っちゃったら今度は羽毛ふとんか御利益のあるツボとかを
めちゃめちゃな値段で買わされていたかもしれませんなあ.もう春だし.
でもあの70過ぎの娘さん,話し相手が欲しかったんだろうなあ.そう思うと
それはそれで悲しい話ではあるのですが.しかしぼくはいったいどういう
外見なんですかね.場合によってはすごい強面(おそらく不精髭のため),
場合によっては人を刺すような冷たい目(一重で細目だからと思われる),
そしてまた別の時にはひょこっといろんなことを尋ねられる痛いくらいに
いいひと扱い.しかしまあ自分に都合のよいロマンチックだなんて決して
訪れやしないよなーと思いながら会社に帰りました.飲み物の氷など既に
全溶けですよ.でも春の昼下がりの椿事,口説かれるの久々だったなー.