投稿者「shiromal」のアーカイブ

おひっこし

しろまる は 空気圧縮マスク を 手に入れた! ということで装備.
これはなにかとたずねたら,鼻と口の周囲に通常よりも濃度の高い
空気を無理矢理吹き込ませることで,肺の弱い人の声帯の動きを
補助してくれるというものであります.実は電動式人工喉頭のほうが
憧れだったのですが,そんなわがままをほざくとアクレスピオスに
蛇の杖で殴られますね.ひとまずなんとかしゃべれるようになって
うれしい.残念ながらここは病院なので,発声しなくても意志の
疎通が可能な電気式筆談であるメールやチャットができないのが
とても不便.これもテクノ依存症というやつなのでしょうか.

ICU から観察室へお引っ越し.もう集中治療受けなくてすみますか.
それからさらに新アイテム,酸素の鼻輪を手に入れました.これは
マスクをしなくても喋れるようになってきたので,あとは酸素の
大量補給をするために装備するもの.マスクよりも格段に小さく,
装着時の違和感も個人レベルではずっと少なくてすみます.ただ
鼻にパイプがずっぽまり.それが左右に分かれて耳から顎を渡り
首筋でキュッと固定する,誰がどう頑張っても素敵なアイテムには
なりがたい逸品となっております.見た目よりも治療が優先.

めざめ

通常の状態まで意識が戻る.こんなに満面の笑みに囲まれたことなんて
これまでの人生で一度もなかった気がしますよ.これまでの経緯を
ひとくさり拝聴.しかし大きな問題が.声が出せない.肺が壊れてるので
声帯を震わせるほどの力が出ないらしい.わかるひとには手話で,
わからないひとにはヘレン・ケラーの役作りをする北島マヤのように
手に文字を書いて意志を伝える.そのうち紙とペンをいただいたので
筆談を開始.やるやるとは聞いてはいたが,こちらが字を書くと
合わせて字で答える失敗を目の当たりにしてちょっと満足.耳は
ちゃんと聞こえています.だから普通にしゃべっててくださいな.

お見舞いのみなさんが退散したあとも,意識が戻ったということで
ICU の看護師も暖かくハイテンション.倒れた時かなにか,どうやら
後頭部を強くぶつけたらしく二ヶ所ほど大きめの傷.どこからか
デジカメが生えて来て「撮ってあげる見て見てー」と大はしゃぎ.
確かに枕に当たる位置がなんか微妙に痛いなと思ったのはこれか.

しかしさらにエスカレートして「なかむらさんお尻の方にもなんか
傷があるんですよ,見えない場所だからこれも撮りますね」と
ナース四人ほどに体をひっくりかえされ下半身を剥き出しにされ
写真を撮られてそれを見せられる.…えーと,高度なプレイか
なにかですか.金を積んで同じことを要求するとしかるべき筋では
かなり高くつきそうな気もします.人生なにごとも勉強であります.

ヒモつきの生活

あいかわらず管だらけの生活.おそらくそのころ意識下にあったのは
管が口の中に詰まって気持ちわるい…との一心.夢の中では「なんか
歯科技士にわけのわからん入れ歯を作らされた.歯の上にさらに
歯肉がある.気持ち悪いので外したい」と思っていました.
そんなものが実在するわけがないのですが,パイプだらけで
歯が噛み合わないからそんな思いで合理化を図ったのでしょうな.
あと「鏡を見せろ」とも叫んだような気がしますが,これも
周囲の皆の手でガンガン封じられていたのではないかと推測.

本能が嫌がっている

実はすでにこの頃,いくつかの薬の投与を止めれば意識が戻る
状態ではあったらしい.でもそうすると体の本能が嫌がって
点滴やカテーテルのたぐいを引っこ抜こうとするので,化学の力で
寝かしつけておくことに.意識はあってないようなもので,
声をかけられると魂のない目でそちらをぬぼりと見たそうな.
ぞっとしない話であります.自分のことなんですけれどもね.

以前「最近ちょっとしんどいー」というメールを書いていたことを
気に病んで,東京から友人がやってきた.こりゃ大変なことです.
しかしこんな状況なのでそのことを憶えているわけもなく.
ただ,手を握ると握り返したそうです.ちょっといい話である.

いそがしい一日

朝.同居のひとが床の上で冷たくなっているぼくを発見.朝の7時ごろから
救急車を呼びつける.重いので運ぶのに手間取ったそうな.この時点で
タイムカード皆勤の夢が潰える.それどころの話じゃないっぽいですが.
で,病院で「昼には帰れるでしょ」とのこと.同居のひとは一安心,
駅でそばなどすすっていたらしい.病院に帰ると,ちょっとやばいので
身体全体に対して透析を行います,従ってここにサインを.今すぐ.
必要.絶対.というわけで承諾書を書かされたそうな.あと,念のため
「ご家族の方を集めてください」とのこと.

ということでパニックになった同居のひと,ひとまずぼくのことを
知ってそうなひとたちに連絡を入れ,携帯電話などから情報を割り出し
実家のひとや姉のひとへ電話をかける.そりゃあもう大騒ぎさ.

13時ごろ一度目の,15時ごろ二度目の透析.その間に数人の友人や先輩,
社長,姉一家などが駆けつけてくれる.17時ごろに透析センターから
その病院の ICU に移動.完全に危篤状態.意識の戻らないぼくは
なんかやたらめったら身体中に管を付けられ,安い RPG のボスっぽく
なっていたらしい.デジカメで撮ろうかとしたひとが数人いたそうだが
さすがに不謹慎と思ったらしくやめたらしい.ちょっと残念ではある.

さて,このままではこのままなので大きな病院に転院します,との
意志判断を同居の人と姉のひととで決定.しかし完全に呼吸が
止まっているため,救急車で移動中も主治医手ずからポンプを
うんせうんせと押しながら移動してくれたそうな.この救急車の中で
「住所と名前を記入してください」とカルテを渡された姉のひとは
自分の住所と名前を書いたらしく,後で医師から問い詰められたらしい.

夜になってから実家から親のひとたちがやってきた.さよならの確率が
かなり高いことを知り泣いていたらしいが,見てないので実感がない.
お見舞いのひとたちもぼくの意識が戻らないので,むしろ来た人同士の
語らいが中心となる.両親のひとが,同居の人や社長と話し合い
病気について深い理解を持ってくれていることを知ってくれたのが
今回の大きな収穫か.とにかく機能しない肺の透析と点滴を続けて
ごぷごぷと周囲に希望と不安をまき散らしながら眠り続けていました.

よくわかんないからおまかせ

髪を切る.どうしますか? と訊かれても
そもそもヘアスタイルの常識を知らないので
全部おまかせにする.ひとつ男前にしてください.
基本水準が低いのでこれ以上悪くなることはあるまい.

…ということでモヒカンにされました.
ばきばきのじゃなくてソフトモヒカンですが.
いまさらベッカムですか? しかもだいぶ世代前の.
でも説明を訊くと,最近は坊主頭がキているらしい.
オシャレボウズとかいうそうですよ.
最近の高校野球とかでも髪型原則自由なのに
学生は進んでこざっぱりとした坊主にしているそうな.
昔は人権無視とか言われてたものですけどねえ.

で,今回は頭の上の方を適当に残してあるので
ジェルでアレンジ自由自在なんだそうで.

いや,ジェルは持ってますが実は使いかたを
よく知らないんですが.ということで
地肌につけない,寝る前には落とす,と学習.
でもそんな細かいこと言われてもたぶんサボるだろうな.
寝癖は帽子被ってごまかすのが一番ですよ.

良い習慣なのだろうけど

昨夜遅く寝たというのに,今朝も早く目が醒める.
朝の8時くらい.もっとぐっすり眠りたいし,
まだ半分ほけらーっとしているのだが,なにくれとなく
いそいそとしている.お茶を飲んだり,本を読んだり,
扇風機にあたったり.で,また今眠いのですが
どうにかならぬものですかねー.

まとめて眠った方がいろいろ安心のはずなのに
睡眠がばらけちゃうのは身体も心もしんどいものです.
かといって昼寝すると夜の睡眠に影響するしな.

細胞が憶えてる

夜も遅くに外食.食べ放題の店でわさわさ食っていると,
マスターへの誕生日プレゼント,ということでお客さんが
なにやら取り出して渡しました.開けていい? と
その場でしゃらしゃらひらくと,中に入っていたのは


ピンクレディー振り付け完全マスターDVD vol.1

さっそく見る,ということでカウンターに置いてある
ノートパソコンで上映大会.マスターは…踊ってました….
しかもほとんど完璧に.お客さんも何人かはきちんと踊ってる.
もうこの年代の人達は身体の細胞の芯までピンクレディーの
振り付けが染みとおっているんだなあと感慨深いものが
ありました.年の離れたぼくの姉のひともずっぽまり世代で,
よく踊っていたような記憶がぼんやりと.

今で言うモーニング娘。みたいなものかな.
それよりもっと爆発的なムーヴメントだったのか.
リアルタイムで知らない世代としては
なんだか妙な連帯感のなかで疎外感を味わってしまいましたとさ.

無機物におちょくられて

鍵の壊れた自転車をわっせわっせ担いで最寄りの自転車屋へ.
坂を降りて踏切を越えて,汗をかきかきなんとか到着.

店の中でなんかパンク修理っぽい作業をしていたおっちゃんに
すいません,このチェーン,錠が壊れてるんでなんとか
直してもらえませんか,と懇願.実はその時年齢につりあわない
かわいらしい額しか持ち合わせがなかったので,
チェーンを切ってもらう間にそばのコンビニの ATM で
金を下ろしてこようと思っていたのでした.

自転車の鍵の修理というのはもっとものものしいものだと
思っていたのです.なにせ防犯上切れにくいように
作ってあるものだし,それをごりごり切るのだから
大変な時間がかかるものだと思っていたのです,思っていたのです.

ちょっと見せてな,とおっちゃんにチェーンのかかったままの
自転車とその鍵を渡して,とりあえず鍵を挿してもらう.
かすっ.くるり.ぱちん.
目の前で鍵が開きました.ぼくの口は開きっぱなしでした.
はい,これでタダやで,と言っておっちゃんは自分の作業に
戻ろうとして.いやいやこれはおかしい,と自転車から
チェーンを外した状態で再度鍵を挿そうとしてみると
やっぱり挿さらない.再度視てもらうと今度はおっちゃんも
顔をしかめ,錠のほうへオイルなど吹きかけてがちゃがちゃ.
でもさすがにもうお亡くなりになられたらしい.
最後の最後でなんだったんだおまえの人生は.

新しいチェーンを買う.どれにする? …スペアキーの一番多い奴.
チェーン切断料金はかからなかったので,チェーン代のみで980円.
なんとかその場の持ち合わせで払って,ため息つきながら
自転車に乗って駅まで.なんか釈然としないけどまあいいか.